忙しい担当者のアクセス解析

アクセス解析とは何か? なぜ難しいのか?

どんどん難しく、高機能になっていくGoogleアナリティクスは、忙しいWEB担当者を悩ませる種です。何をレポートして良いかわからないし、もう、進化についていけないという声も少なくありません。しかし、ちょっと落ち着いて「アクセス解析の目的」から見なおしてみませんか?そこに、アクセス解析攻略のヒントがあります。

多くの人が間違えてしまうアクセス解析の真の目的

貴社のアクセス解析の目的は何ですか?と聞くと、「サイトの悪いところを知り、改善するためです」という回答が少なくありません。実際、そのように書いてあるアクセス解析の本もあります。これは間違ってはいないのですが、厳密に言えばアクセス解析に対する過大評価です。まず、アクセス解析という言葉の定義を考えてみましょう。一般的にイメージされる「アクセス解析業務」とはGoogle アナリティクスなどのアクセス解析ツールでレポートを出すことだと思いますが、それでできることは「現状認識」だけです。改善策を出すのは、その後の定例ミーティングなどの役目です。

現状認識(アクセス解析ツール) → 気づきを得る(レポート共有) → 改善を考える(定例会)

アクセス解析をする人は、改善案を出すことではなく、まず「みんなに気づきを与えるデータ」を提示することを目標にしましょう。この認識がないと、アクセス解析の作業負荷が上がってしまいます。

気づきが多いレポートを作成する方法

では「気づきを与えるレポート」はどのように作成すれば良いでしょうか? Googleアナリティクスで表示されるデータ量は膨大で、どうまとめてよいか途方にくれることも多いと思います。そこで、取っ掛かりをつかむために書籍を読んでみると、「膨大な量のレポート作成方法」か「KPIや仮説が大切」と出てきます。ここで諦めてしまう人も多いですね。そんなものが簡単に作れるならば、とっくにやっていると思います。それができないから書籍を読むのだと思います。

そこで今回の講座では、書籍ではあまり語られていない、プロの話をしましょう。

そもそも、気づきが多いレポートを作成するには、気づきが多いレポートと、少ないレポートの差を知らなくてはなりません。そして、この2つの差を知るためには、もともとアクセス解析には「モニタリング」と「積極的なデータ収集」の2つの違う業務があることを知らなくてはなりません。

違いをイメージしやすいように、私はこの2つを便宜上「守りのアクセス解析」と、「攻めのアクセス解析」と呼んでいます。

守りのアクセス解析、攻めのアクセス解析

アクセス解析には2種類が存在します。守りのアクセス解析と、攻めのアクセス解析です。この違いは、悪いところを矯正し、長所を鍛えようとしているスポーツ選手に例えるとわかりやすいので、表にしてみました。

区分 通称 チェック箇所 目的 スポーツ選手で例えると…
守り 定形運用(日次、週次、月次) 定形(少) サイトの現状を定期的に把握する 健康診断
全体解析 定形(大) 現状や、悪いところがないか手当たり次第に調べる。データ・マイニングもこの一種 人間ドック・全体チェック
KPIのチェック 定形(ピンポイント) 改善度合いの進捗をチェックする 強化ポイントの経過観察
攻め 仮説に基づくアクセス解析 任意 仮説(勘)を頼りに、どんどんデータを収集していって、原因や対策を特定させる 医者・コーチの診断

攻めと守りは、目的もアプローチも全く違います。アクセス解析というくくりで、モニタリング、KPI、仮説、分析といった言葉は同列に語られることが多いですが、それは「健康で強い体を手に入れよう!」という一言で、コーチの診断も健康診断も同じものとして、ゴチャまぜにしているようなもの。健康診断と、コーチの診断はそもそも運用方法や目的が違うのですから、違う概念で取り組むべき話です。この「守り」と「攻め」を意識すると、日々のアクセス解析運用にメリハリがついてきます。次の項では、守りと攻めのアクセス解析について詳しく見ていきます。

守りのアクセス解析は気づきが小さい

守りのアクセス解析とは、モニタリングのことを指します。定期的に体温や身長を測るかのごとく、定期的にある特定の指標をチェックします。そして、多くの人がアクセス解析というと、このモニタリングをイメージします。しかし、残念なお話があります。モニタリングでは、サイトの悪いところまではわかりません。モニタリングとは、健康診断のようなものだとお話しました。健康診断では、体温が38度になったなど、異常に気づくことはできるかも知れませんが、どこが悪いかはわかりませんよね。同様に、アクセス解析のモニタリングで、異常値には気づきますが、悪いところに気づくのは難しいのです。

KPIはどうでしょうか?表からお分かりのように、KPIは強化ポイントの経過観察のようなものです。この値をチェックすることにより、自分の体がうまく鍛えられているか進行を意識できるようにはなりますが、やはり、悪いところや改善点がわかるわけではありませんね。

唯一の可能性があるとすれば、人間ドックです。手当たり次第にデータを分析していけば、大きな気づきを得ることができるかもしれません。ですから、書籍の多くは、この人間ドック系のアクセス解析を紹介しています。

しかし、人間ドックに費用と時間がかかるように、手当たり次第にデータを見ていくのはとても時間がかかります。そう頻繁に行うことはできません。

まとめると、多くの人が「アクセス解析」としてイメージするのは週次/月次のモニタリングなのですが、そのモニタリングでは、期待していたサイトの悪いところはまずわからないのです。唯一人間ドックには可能性がありますが、そのためには、手当たり次第になるべく多くのデータを確認しなくてはなりません。

もっと効率的に「気づきの多いレポート」を作成できないでしょうか?攻めのアクセス解析に答えがあります。

攻めのアクセス解析は気づきが大きい

攻めのアクセス解析とは、「積極的なデータ収集」のことです。

お医者さんの診断に例えてみます。お医者さんは、患者さんの申告やデータを頼りに、自分の「勘」を信じて、どんどん体の部位を調べていきます。そして勘があたっていたと確信したら、薬を出したり、注射を打ちます。例えば、頭が痛いということで、CTをとってみたら、何も異常がなかった。そこで、熱を測ってみたが、それでも異常はない。そこで、患者に詳しく聞いてみたら、どうやら肩こりがすごいらしい。ということで、おそらくそれが原因なので肩こりの薬を処方した。

ちょっと藪医者くさい流れですが…自分の勘を信じて、データの収集を重ねていくことで、原因特定の精度が高まることわかると思います。

つまり、勘を頼りに積極的にデータを収集すると、とても大きな気づきを与えてくれるデータが取得できるのです。守りのモニタリングとは流れが逆ですね。守りでは、決まった場所を見るのに対し、攻めのアクセス解析では、「最初の勘」を頼りに見るべきデータを決定します。多くのアクセス解析の書籍では、「最初に仮説をたてること」が大切だと言っています。この「仮説をたてる」とは、「最初の勘」のことを言っています。「『勘』を頼りにデータを見ていくと、気づきが大きいよ」ということを言ってくれているわけです。

攻めと守り、どちらが大切?

ここまで、攻めと守りのアクセス解析についてお話しました。多くの人がアクセス解析に期待するのは「悪いところを知る/大きな気づきを得ること」だと思います。そうだとすると、守りのアクセス解析、つまりモニタリングでは気づきが少ないので、どこかで攻めのアクセス解析をしなくてはなりませんね。とはいえ、守りより、攻めのアクセス解析を重視すべきかというと、そうではありません。両方とも大切です。

人間の健康と一緒ですが、悪いところがあるならば、医者に診断してもらって攻めの解析をした方がいいでしょうし、悪いところがない時は、守りのモニタリングが重要です。

攻めと守りは表裏一体で、つながっていますから、両方とも軽視するわけにはいきません。TPOに合わせて使い分けることが必要です。特に、有限な時間を使わなければならない中小企業のウェブ担当者であれば、効率的に、攻めと守りを組み合わせることが求められます。

この章のまとめ

アクセス解析の運用には「モニタリング(守)」と「積極的なデータ収集(攻)」の二種類がある

  • モニタリング・・・健康診断のように定期的にある指標をチェックすること
  • 積極的なデータ収集・・・コーチの診断のように、仮説を頼りにチェックを行うこと
    • 守りのアクセス解析は、異常のチェックが主目的で、気づきは比較的小さい
    • 攻めのアクセス解析は、仮説を頼りにデータを収集、気づきは比較的大きい

忙しい中小企業の担当者はこの攻めと守りを効率良く組み合わせた方がよい

【ウェブ通TIPS】補足

本章ではアクセス解析に攻めと守りがあることが記載されています。

具体的なアクセス解析業務を行う際にこの二者を意識することは重要ですが、では具体的にどちらのデータを確認すべきか?と問われれば、ウェブ通事務局の経験則において「攻めのデータ」と答えます。

理由は主に3つあります。

  • 取得するデータの種類が少なくてすむ上に、得る気づきが大きい
  • 誰にでもできる
  • 具体的な改善策が思い浮かびやすい

攻めのアクセス解析で絶対に取得した方がよいのは「ヒートマップ」や「顧客の声」や「モニター(ユーザーテスト)」というデータです。ユーザーテストはポップインサイト社が提供しているサービス(https://usertesting.jp/express/)など今では数千円からできますし、知人に頼めば無料でもできます。一度騙されたと思ってやってみてください。驚くほど多くの改善策を思いつくはずです。

この理由を論理的に説明するならば、Googleアナリティクスなどの数値データは、全体の傾向把握はできますが、ユーザーの細部の悩みを表していません。一方でユーザーテストは、ユーザーがそのまま不満を声にしてくれるので、対策がわかりやすいのです。どちらも大切なデータですが、ウェブ業界で有名なビービット社などはユーザーテストで成果を上げまくった会社です。ユーザーテストは成果に直結しやすい素晴らしいデータです。ぜひデータという範囲を大きく捉えて業務改善に役立てましょう。

関連記事